うるおい #01

ぜんぶ練習のつもり

SUNNY BOY BOOKS 高橋和也

SUNNY BOY BOOKS 高橋和也

リブロと青山ブックセンターでの勉強時代

もうなくなっちゃったんですけど、大学のときは松戸のリブロでアルバイトをしていて、ずーっと返品を作ってました。新刊書店なので、本を返品できるんです。毎日新しい本がどんどん入ってくるので、裏で本を入れ替えるのと、戻すのをやるんですけど、それを卒業まで大体いつもやってました。そのお店に限って、ですけど「こういうのが売れないのかあ」とか、売れない本が見えるんですよ。

卒業してからは青山ブックセンターに行きました。昔から青山ブックセンターは好きだなあという目で見てて、社員があるなら一番行きたかったんですけど、なかったんです。それで、バイトでいいや、と。バイトで入るときは、もう自分でやることを前提にそこに入ろうと思っていたので、最初から本屋になるつもりでした。最初は表参道本店で、そのあとすぐに六本木店に移って、四年間六本木で働いていました。

その間も休みの日とかはsunny boy booksをやっていて、sunny boy booksは、今年の6月でお店が3年目になって4年目に入るんですけど、この名前はもう7年目になります。

ぜんぶ練習のつもり

青山ブックセンターで働いている時に、友達二人と一緒に地元の柏で場所を借りてシェアしようか、っていう話になって、僕は入り口で本屋をやろうと思ったんです。その時に決めた名前がsunny boy books。

柏で本屋をやろうと思ったとき、古物商の免許も取りました。いずれ取るから、練習のつもりで。「こういう風に手順を踏むのか」みたいなものを確認したという感じで、じゃあ仕入れはどうしよう、って。そういうのを考えながらやってました。三人でシェアしてるんで、家賃代は2〜3万円なんですけど、一回も本屋の売上から出したことはなかったです。ほとんど倉庫として使っていて、本を仕入れたらそこに置いておく、という感じで。

掛け持ちでハンバーガー屋をやっていた

青山ブックセンターで働きながら、地元のハンバーガー屋さんでも働いてました。個人店だったんですけど、佐世保バーガーとか流行りだしたぐらいにその人も始めて、今もあるんですけど。そこから、ハンバーガー屋さんもジャンルは違うんですけど、個人店というのが今と凄く繋がっていて。お店の家賃がどうこうとか、粗利がどう、とかそういうのを見る目というのが、お店をやる上でなんとなく活きてるかな、と。

日照り

お店をオープンしたのが2013年6月で、最初の一ヶ月はそれなりに人が来てたんですけど、7月は売上がやばくなって。これは早かったなと思いました。7月1日は売上がゼロで、今のところ売上がゼロだったのはその日だけなんですけど、急に暑くなったのでよく覚えています。このままの数字が三ヶ月続いたらそれは閉店になるよね、という数字で。これは給料ではありません、みたいな金額が売上でした。気持ち的には、閉店までのカウントダウンが始まって。「バイトするかなあ」と思ったりして。

そんななかで、たまたま自由が丘にあるミシマ社っていう出版社さんと話す機会があって。前から取引はあったんですけど、もうやばいかも、という話をしたら「展示をやってみませんか」というお話をいただいたんです。それで、ちょっと絵本の原画展をやってみたらお客さんが来てくれた。その7月は本を触るのも怖かったんですけど、単純に知られてないんだな、って思って。

そこから、知っているつてを辿って、声をかけて、展示とかどうですか、って。じゃあやってみようかって流れができる。それが今につながっている、というところです。

まだ実験フェーズ

「これをやってます!」って人に自信を持って言えるぐらいには、まだなってません。それは収入のこともありますが、棚の内容もあって。やってみて、訂正して、って常にトライをするんです。無理のない範囲ですけど、実験して、考えて。まだまだ終わりはしないな、と思っていて、どこまでいけるのかって思っています。そういうのも含めてまだ「実験フェーズ」です。

売るのが楽しい

僕、表現は多分向いてないんです。絵を描いたりとか、写真撮ったりとか何もやらないんです。もしかしたら、急にやりだすかもしれないんですけど、この30年間で一回もそういうのがない。

でも、本屋は何年もやろうとしていて、人生の3分の1…4分の1か。そのぐらい続いているのが本屋なんです。いま本を売るのが自分だけど、何かに自分の「楽しい目」が向いたら、本屋をやめて何かを作るかもしれないし、その辺りは別に何も決めてません。

でも、今は売るのが楽しいんです。

誰を見て本を仕入れるか

自分で好きな本は「この本がすごくいい」って、イチオシとして出すことはあります。でもその、それとは別に、うちは3年間やってきたんで「こういうのが売れるんだ」「これはあのお客さんにすごい多分刺さるだろう」とか、そういうのがなんとなく見えていて。

そっちを見て、本を入れています。もしかしたら、これからもう少し「自分はこれが好きだ」って、なにかにハマっていくかもしれないんですけど、仮にお店に合わなければ、それは置かない。小出しにそれを出すとか、その辺はバランスを取ります。バランスを取ってみるほうが面白いと思うんです。

うちだと、この距離感なので誰が来ている、とかは分かりますし、あの人はここの棚しか見ないなあ、とかも分かるんです。これだけ狭いし、狭いなりにいろいろあるんで、来たら全部見ていってもらいたいんですけど。そしたらなにか予期せぬ何かが…引っかかって、あってくれたらいいなとか。

あんまり本屋になろうという人はいない

就活では本屋ばかり受けました。僕が本を読み始めたのは大学生からだったんで、芥川賞は誰とか直木賞は誰、みたいなものは全部知らない。それで、筆記テストは全部落ちた。じゃあ本屋を自分でやろうと思ってABCにはアルバイトで入ったんですけど、そこに本屋になりたいって人はいなかった。音楽やってたりとか翻訳やってたりとかっていろんなことやって、今はもうやめたり、その道へ行ってる人とかいるんですけど、本屋はいませんでした。

でも、最近は多いみたいで。本屋さんになる、みたいな話をする機会があって、自分より年下のひとが来てたんです。今は東京だけどちょっと地元が地方にあって、本屋をやりたいという話を聞きました。でも、今うちがやっているスタイルとかも、地方に持って行ってやれるか、というのはまた微妙だな、と思っています。東京だからやっている、というところが少なくともあるんです。

組合向けの本屋じゃない

一応、sunny boy booksを始める前に古本組合というものがあるんだ、というのは調べました。ここは組合で回してるんだろうなあ、みたいな。でも、本屋をやりたいから、それは本屋なのかって疑問があったんです。俺がやりたい本屋はこれじゃない、みたいな。紐で縛った全集が店先においてあるような古本屋は、店舗売りを基盤にしてないと思います。古本組合で、本とお金を回してるんじゃないか、と。古本っていうものを扱ってるけど、生計の建て方も、ジャンルとしても全く違うんです。うちは新刊も扱ってるし、組合にも入っていないので、基本的にはここで売れた本で生きています。

生きてる人の本を取り扱うこと

最近は、取次と書店の関係も少しゆるやかになっているみたいです。今までは、もしここで新刊やるとしたら、仮に土地があればそれを担保にするとかが必要だったんですよ。コケたら全部持って行ってください、僕の持ってるすべてをあげます!みたいな覚悟を示さないと口座を開いてもらえないっていうのを聞いてたんで、絶対新刊は無理だなと思ってたんですよ。こんな規模じゃ無理だと思ってて。だから、最初は古本をやろうと思って始めたんですけど、うちは今新刊の割合がちょっと高くなってきています。それは、生きてる人が出すとどうしても新刊になるので。それを売っていくので、どうしても少しずつ新刊が増えていくんです。

作ってる人の顔が見える本

売れる作家について、ABCで働いていたときと大きな変化があるかといえば、そんなにありません。それよりも、面と面で向き合って付き合っている作家さんとか、そういう人の本のほうがやっぱり売れます。作ってる人の顔が見えると、場合によってはそれを印刷してる人やデザインしてる人、みんな知ってる本、みたいなものもあるんです。そうなってくると、伝えられる情報が尋常じゃないぐらい出てくるので「そこまで言われたら買いますよ」って何回か言われました。そんなことは今までに無かったので、それは三年間の蓄積かなと思います。大きな書店ですら10冊しか売ってないのに、うちは50冊とか100冊売ってる、とかもあるんですよ。「そんなに売れるんですか」って、営業のひとに言われることもあります。

今までと違う売り方

本との最初の出会いは「取次から送られてきたものを開けた時」というのが一般的な本屋だと思います。でも、うちは取次から送られてくる前に作家さんと出会っていて「今度こういうものを作るよ」というのを教えてもらっているので、その辺の始まりからして違うんです。それは全部の本ではないけど、ちょっとずつそういう本が出てきました。そういう本が年間何冊かずつ増えて、関わりの深い本を増やしていければ、売れる本は自ずと増えていくのではないか、と。今までとは違う本の売り方、みたいなものはできてるかもしれないと思っています。

あなたにとってうるおいとは?

うるおってる時、楽しいときじゃないですかね。僕「楽しい」でしか動いてなくて、基本的には「やります」って言うので、やってみないとわからないと思っています。気づいたらつらかった、とかはもちろんあるんですけど。でも、本をいじってるのが楽しいんです。シールを貼ったり、とか。

高橋 和也(たかはし・かずや)

1986年生れ。新刊書店勤務後2013年にSUNNY BOY BOOKSをオープン。紙モノの製作部門「SUNNY BOY THINGS」や古本ユニット「本屋の二人」の活動他、カフェや雑貨屋などへの本のセレクトも行う。

www.sunnyboybooks.jp

高橋さんの一日

8:00すぎころ
起きる
午前中
仕入れや買取や展示の打ち合わせ or たまにのんびり or がっつり家事 or 納品
13:00
お店あける 棚だししたり、レイアウト変えたり、 メールしたり、フェア企画考えたり、 納品本の準備したりなどしています。
22:00
お店しめる (週1, 2回は閉店後はハイマットカフェへ棚を整えにいきます)
23:00ころ
帰宅 晩酌だけが楽しみです。 本読んだり映画みたり or お客さんと飲みにいったりなど
1:00か2:00ころ
就寝

ネコミミの一言

高橋さん、大学在学中に本に目覚めて、そこから本屋まで一直線に人生を歩んでいるのが凄いなと思いました。アルバイトもすべて蛇足ではなくて血肉になっているというか、無駄がない。見た目も話し方も柔らかい方なんですが、話の内容には強い芯が一本通った力強さがありました。

Text:
necomimi
Date of publication:
May 17, 2016