けっこうの前のことだけれど、友人の写真家がご夫婦で世田谷線の上町から千歳烏山へひっこしをした。家賃は少し高くなり、その代わり自室を暗室にして、別に借りなくて済むようにした、とのことでした。
久しぶりに会ったときに様子を訊いてみると、かれは浮かない顔をして、「じつは雨漏りがするんです」って。ちょうど雨がつづいている時期で、「外で仕事をしていても、今日は雨漏りするだろうかと心配で」と、言っていた。
それからぼくは、電車に揺られていても、プールで泳いでいても、よくそのことを思い出した。二人が雨漏りの心配をしている様子を思い浮かべた。せっかくの暗室が使えない心細さに同情した。
だけど、それはただ心細いんじゃなくて、なんだかじーんとするものがあった。あたらしい家で、二人で心細いことがいいんじゃないか、と思った。なんとなく、それが愛なんじゃないかと思った。
二人で雨漏りの心配をしていること。
ちなみに、しばらくして無事直ったそうで、ぼくも遊びに行かせてもらいました。