この椅子をわたしが立つとそのあとへゆっくり空がかぶさってくる
沖ななも
私は「今日もどうせ暑いんだろうな」と思ってなにもかんがえずに過ごしてしまったが、そういえば一段と暑くなってからはずっとそんな感じで、空白がつづいている。秋口になったら戻ってくるであろう、みずみずしく充実した精神を今はどこかに預けている。たぶん、夏のあいだだけ理性や感性を預かってくれる木陰の銀行みたいなところとか、古い家のたんすの抽斗とか。そこに置いてある。一時的になにもかんがえないようにしているだけで、そのうち戻ってくると信じたいが、最初からなにもかんがえてなかったかもしれない。どうだろ。
この短歌はおそらく初期のななもさんの代表作で、前にもふれた歌集〈衣裳哲学〉から。ほんと〈衣裳哲学〉の作品はどれもいい。歌集という本のジャンル、デザインもさっぱりしていて好きだな。短歌についてなにも知らないだけに、「これは好きだ」という歌人や本を気ままにふやしていきたい。