雨音のひつきりなしに枇杷甘し
汀女
雨の日の室内風景によく似合うのはメロウな事物と相場が決まっており、たとえばレコードに針を落とす、食卓に伏せて遠い昔を回想する、滅多に履かないスカートで外へでる訳でもなく気怠く過ごす、などの状況と小物が浮かんでくるけれど、なかでも果物をむいて食べるというのは、なんであれ確定的な効果をもたらすものとして古来より知られている。苺、いちじく、葡萄、洋梨、パイナップル、メロンなどと並べてみれば分かる通り、どれ一つとして雨音の柔らかな情緒を損なうものはなく、むしろその甘さを官能的に引きだしていることにお気づきだろう。かくしてここでは「枇杷」が選ばれているのだが、あの枇杷ってものの色、小ぶりでころころした感じ、うっすらと毛におおわれているところ、ぷるんとしてやや皺のある果肉、ものとしては控えめで、つるつるというよりはマットな手触り、希薄なようでとっつきにくいところは無く、食べだしたら止まらないことも稀にあるかもしれないが、まずまちがいなく主役に躍り出ることはない、あの枇杷の、やさしいうるおいと清新さが、雨の日にはよく合う。