家の二階で日がな一日(ぼくが七時からいて彼女は一〇時には合流していた)机に向かい合っていずれもMacBookを開いて働いていたら、いつの間にか、たそがれ時になっていた。お茶の魔法瓶がなんども階段を往復した。コーヒーゼリーなどのお菓子も行き来した。暖房の設定温度は小まめに替えたし、加湿器のタンクを取り出してキッチンで水を貯めた。香料を焚いていたし、風邪薬も飲んでいた。それら一つ一つがたそがれ時に向かって欠くべからざるものとして準備されていった。われわれは頻繁に〈アポテーケフレグランス〉のページについて議論した。また、ぼくは不動産についての文章の合間を縫って、どの製品にどの香料が紐づくか、という値をスプレッドシートとにらめっこしながらこつこつ埋めていった。彼女は写真を挿し替えたり、修正点を箇条書きにしていた。効果的なアイディアが幾つか浮かんだ。これまで余り考えたことなかったけど、こうやって日が暮れていくのが望んでいた一つの形かもしれない。おいしいものはべつの日に。かわいい洋服はべつの日に。陶酔するような、人が羨むようなことはべつの日に。今は静かなたそがれ時こそが報いなのです。じゃ、風呂を沸かそう。