さよならハルちゃん

こっちに引っ越してきてから足繁く通っていた〈ハルちゃん〉が、八広で新装開店するまで一時閉店する日。私はまだ熱があるし〈中毒者のリハビリ施設〉にいることになってるから、とても酒を飲む気にはなれないけど、とくべつな許しを得て店の外からその様子を眺めてもいいことになった。青く染まった夕方の空いつもの露地まで歩いていくと、町会館のあたりでもう賑やかに騒いでいる音がした。パン屋の角を曲がって近づき、中から見えないよう首をだして覗いて見ると、いつもの人たちで満席だった。もっともここにはいつもの人たちしか来ないし、一〇人も入れないのだが。ばね工場の人がいたし、ねじ工場の女たちもいた。子供みたいな消防団の人もいたし、あの肌質の似ている夫婦もいた。私は映像のようにそれを鑑賞するだけで満足した。ところで、前に作家の「大人の流儀」みたいな本を立ち読みしたところによると「行きつけの店は作らないほうがいい」とのこと。義理で用もないのに行く時間がもったいない、みたいなことだった。たしかに言えてるかも…。でも、少し大人をかじると「いつもの店」とか言いたくなっちゃうんだよね。

小風景