iPhoneがない

昨日からiPhoneも何もかも取りあげられて見られない。「充電しといてあげるから」と言って箱の中に入れられてしまった。「目を休めなくちゃいけないから」と目隠しまでされた。枕元に葛根湯の瓶とお茶だけがある。鼻をかんだティッシュを捨てるための手作りの屑かごもある。狂おしいほどに退屈だけど、この一年くらいが余程おかしかったのだと気がつく。うちは今、中毒者をいたわる施設みたいになっている。夕方には、妻は渋谷へ向かった。どこかの採用担当者とカジュアルな面談をしてくるとのことだった。彼女にはスカウトのメールがいくつも届く。「久しぶりに株式会社の空気にふれてみたいから」と出掛けていった。それで私は、ベッドに仰向けのまま送りだし、ドアに鍵がかかった音を慥かめてから、ごそごそと箱の中をまさぐった。

小風景