栃木の温泉

おいしい古い中華料理屋さんがあるというので、わたしの父さんと母さんと妹夫婦と、家族皆で炒飯や餃子の卓を囲んだり、また家でせんねん灸を据えてみたり、寺の茶屋できぬかつぎを齧ってみたりと遊んでいましたが、戻って土産にもらった〈ほんびのす貝〉を酒蒸しにして、やはり今夜もシンプルなお粥にした二人の夕食の席で、ふと、なんとなく先延ばしにしていたけれど、やっぱり旅行に出掛けよう、という話になったから、あす栃木の温泉へいこうと思っているんだけど、というのもここ、東武鉄道の沿線に住んでからというもの、ポスターだったり看板だったり、あるいは乗り換えの途中で見かける浅草駅の、特急のホームに停まっているなんともいえず垢抜けない、そそられない形をした車両なんかを見るにつけ、少しずつそそられてきて、ふしぎなものでいつしかあの車両(きぬ・けごん)に乗って旅立ちたい、なんて夢想するようになっていた。だから、山の湯に浸かりたいというよりは列車に揺られたい気持ち。月曜日の栃木の温泉へ。

小風景